家で待っていてくれる人

2014年10月2日 / ブログ


結婚相談所インフィニ カウンセラーです。

 

彩瀬まるさんという新進作家の「桜の下で待っている」という小説を読みました。

新聞の書評で気になったので、手にとってみました。初めてのお付き合いです。

5編の短編からなる一冊なのですが、

どの1編も東北新幹線でどこかの駅におりるところあたりから展開します。

登場人物は共通しませんが、そういう意味で、少し変わった形の連作小説になっています。

ただし、一人だけどのお話にも顔を出すのが車内販売の女性で、彼女が第5話の主人公です。

新幹線に乗っているのは、宇都宮の祖母に会いに行く大学生、

結婚を決めた彼氏とその実家の福島へ挨拶に行くカップル。

母親の七回忌で仙台の実家に帰るサラリーマン、

叔母さんの結婚式に出席するために家族と花巻に向かう少女。

特に事件は起こらないし、変わったこともない、どこにでもありそうな光景が描かれています。

人と人が暮らしている限り小さな葛藤や行き違いはあって当たり前

そんな普通のことが、なかなか読み応えのある文章で綴られていました。

最後のお話がこの小説のしめくくりになっています。

さくらは、転職をして新幹線の車内販売の仕事について四年。

ある日、弟が「相談したいことがある」と言って姉の元を訪れます。

学生時代からつき合っている彼女と、彼女の両親からそろそろ結婚を、と言われている。

「家庭ってそんなにいいもんだったっけ」

弟はそんな風に言って、結婚することへの不安を表します。

この二人きりの姉弟は、父親の仕事の関係で幼い頃から転居をくり返し、

けんかが絶えなかった両親は離婚。

そのために親戚づきあいもなく、祖父母とも疎遠になってしまっています。

「自分には帰省できる故郷がない」と二人ともおそらく感じている。

結果、弟のこの相談事になったのでしょう。

さくらは、さまざまな理由で帰省する人たちを毎日見てきました。

そして、誰かの待っている故郷はいいものなのだと、

のぼりの新幹線で日常に戻る人たちの様子から感じていました。

帰る場所がほしいのではなく、「居心地よくするから誰かに帰ってきてほしいな。

私が見つけたきれいなものを一緒に見て、面白がってほしい。

そういうのがやってみたくて、家族が欲しい」

自分が育った家庭がどんなものだったか、

それによって結婚や家族のイメージはある程度決められてしまうかもしれません。

でも、帰る場所や、待っていてくれる人がない人生はやっぱり殺風景でしょう。

人付き合いは面倒なことも起こるけれど、心を暖めてくれるものでもあるのです。

そんなことが書かれているこの連作集、手に取ってみませんか。